志集 売りの女
2010.12.5 0:14
みすぼらしい格好をした女の人が首から看板をぶら下げて立っている。
場所は新宿駅西口付近、ビックカメラやユニクロがある高架橋のすぐ下だ。
高架橋の柱にピンと直立し真っ直ぐと微動だにせず構えている。
一瞬、浮浪者に思えたが、どうにも雰囲気(オーラが只者ではない)が違いすぎる。
宗教か何かの勧誘だろうか?
年の頃は30歳前後。遠巻きながらも美形に思えた。
きれいな格好をすれば、相当モテる様に思える。

首からぶら下げた看板には
『私の志集買ってください』 の文字

志集とはなんだ?
詩集か刺繍かそれとも死臭か?

寒い中微動だにせず相当長い時間いた。
僕が往復したときの時間差は3時間。
その間、ずっと柱を背に立ち続けていたようだ。
生半可な気持ちでは到底出来ないだろう。

彼女はいったい何を売っているのだ?
声を掛けたかったのだが、彼女自身が放つ
異質なオーラに気おされ、結局すれ違うままに終わった。
10分もすれば100人は通り過ぎる道だ。
僕以外にも気に掛かる奴はいるだろう。
だが、その殆ど全てが素知らぬ振りをして
通り過ぎていく。。。

今度見かけたら志集が何か聞いてみよう
また、そこに現れるだろう。
そう思い、僕は新宿駅を後にした。


あれからもうすぐ1年。。。
彼女との再開はない。

あれだけのオーラと信念を持って立ち続けていたんだ。
そう、簡単に志集売りを止めるだろうか?
場所を変えたのだろうか?
時間が違うのだろうか?
志集とは結局何だったのだろうか?

心に何とも言えない感情だけが残る。
この感情を払拭したい要求にかられる。
新宿駅西口を通る度についつい探してしまうんだ。
まるで、恋人を待ちわびるような不思議な感覚。
そして、居ない事にがっかりして家路に着くんだ。
もし、次に彼女を見かけるようなことがあったら。。。

僕は迷わず声を掛け、【私の志集】を買うだろう。