 リンゴ |
かたつむり 1 2010/6/7 1:49
................... _(@)ノ”
かたつむり
僕らの大好きな 雨の季節 人間さんたちは うっとうしいって言うけれど この時期 雨降らないと 後になって 水不足って 慌てるくせに 人間さんって ほんと身勝手
でもね 嫌いじゃないよ そんな人間さんのこと 僕らが街で生きられるのは 人間さんのおかげだから この殻の素 人間さんが用意してくれたから 街では僕らがブロック塀に這っているのを よく見かけるでしょ ヤスリのような舌で削り取って コンクリートを食べてるの 自然の中では 石灰岩を食べている コンクリートの主原料は 石灰岩でしょ
殻を背負うこと やめた仲間 なめくじさんたちは 強力な粘液を身にまとい 重荷を背負わずに生きられる 身軽さを手に入れた カルシウムの乏しい土地へも進出できた 開拓者
だけど 僕らは かたつむり 殻を作れないと 干からびてしまうから 限られた場所でしか 生きてゆけない 石にかじりつかないと 生きてゆけない
背負ってる荷物は 重いけど でもね この殻 気に入ってるよ
僕らの殻は 管がらせんを巻くように育ってゆく 出入り口の所に 新しい殻を付け足して 巻く回数を増やしてゆく
渦巻きの中心が スタート地点 殻の出入り口が 現在地点
よく見てみて 殻の出入り口と平行に 縞模様のような筋があるでしょ これは木の年輪と同じでね 成長したり足踏みしたりした跡なんだ 天気に振り回されて生きてる僕らは 一年の間にもたくさんの年輪ができる 殻に閉じこもって 日照りに耐えていた日々 雨に濡れながら 石にかじりついていた日々 全部 この殻に刻まれている
この殻は 成長の記録そのものなんだ
ぐるぐると巻いてゆく管は 少しずつ太くなる だから 殻の出入り口は いつも 今までで一番大きく 世界へ向けて開かれている
日々大きくなる 管の太さ 毎日は ぐるぐると 同じ所を回る 繰り返しのように 感じるけれど 今日の一日は 昨日の一日よりも きっと 大きな一日になっているんだ
一瞬一瞬が 日々 大きくなって そのたくさんの一瞬の積み重ねも 日々 大きくなる この殻は 僕のアルバム 嬉しかった瞬間 悲しかった瞬間 全部ここにしまってる
母さんに僕のこと話した時 僕の絵をバカにした奴がいたんだ 「カタツムリを左巻きに描く」って その日 うちに帰った母さんはさっそく 僕にカタツムリの絵を描かせたの 「これ何て種類のカタツムリ?」って聞く母さんに 「ヒダリマキマイマイ!」って得意げに答えたよ
カタツムリって 一言に言っても いろんな奴がいるんだ だから 勝手に決めつけないで 自分が知らないだけなのに 存在まで否定しないで! 大切なもの 壊してしまうから!
4月のあの日 あの場所で 新緑のあじさいの木を見つめながら 近所のおばさんの話 思い出していた 僕の大好きな あじさいの花はね 生まれつきだけじゃなくって 土の成分でも 色が変わるんだって 今年花の咲かない枝を 切らずにおくと 来年はきっと その枝の先に花が咲くんだって
あの日から あの場所から 僕は 壊され始めたんだ・・・
でもね いつも心に描いてたから 雨に濡れて輝く あじさいの花 だから 信じていられたんだ 酸っぱい日々 味気ない日々 苦い日々も きっと 未来を僕だけの色に彩ってくれるんだ 実り無く 同じ悩みを繰り返す日々も きっと 来年咲く枝なんだ だから 決してあきらめなかった
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